針の山、ときどきお灸の香。

日々

「顔に針を刺す」
……字面だけ見ると、ホラーだけれども。
長年、気になりつつも「痛そう」「怖い」「そもそもどこへ行けばいいの?」と三拍子そろった言い訳を並べて、遠巻きに眺めていた美容鍼の世界。つい先日、イベントで女性鍼灸師さんの存在を知り、同世代のすてきな女性が一人で営む小さなサロンに出会ったことが、重い腰を上げる一押しになった。

美容鍼とは、いわば肌の内側へのアプローチ。
ごく細い針で細胞をちょっとだけ刺激して、眠っていた「再生しようとする力」を呼び起こすのだという。
聞けば、むくみや血行不良、そして私のこの、なんとも言えないお疲れ顔にも良いらしい。顔の組織に刺して微細な「傷」を作ることで、体が本来持っている修復力を引き出す。肌の奥で血流が促され、コラーゲンの生成が活発になる。そのメカニズムを聞きながら、以前に観た映画『はたらく細胞』の賑やかな光景が頭をよぎった。私の顔の表面では、白血球や赤血球たちが「おい、一大事だぞ!」「ここを直せ!」と、大急ぎで駆け回っているのだろうか。それを考えるとなんとも愛おしい。

仰向けに横たわり、目を閉じる。シュッ、シュッ、と小気味よい音とともに、顔や頭に針が置かれていく。
想像していたような痛みはなく、時折「お、当たってる」という不思議な響きがある程度。こめかみや耳の下のあたりはズンッという鈍く重い刺激が走る。「この辺りは凝ってますね~」と先生。食いしばりがひどいので納得である。電気を流すコースもあるそうだけれど、今回は優しく、手打ちの針だけで進めてもらった。

同時に、お腹の上には「箱きゅう」なるものが鎮座する。木箱の中でお灸を焚き、お腹をじんわり温めるという代物だ。顔に針、腹にはお灸。鏡で見たらなかなかのシュールな光景だろうけれど、これが驚くほど心地いい。お灸のあの、独特な、少しお寺を彷彿とさせる香りが鼻先をかすめると、頭の中の雑念がすーっと消えていった。

さて、施術が終わって鏡を覗く。
さすがに一回で「二十歳の自分に再会!」とはいかないけれど、なんだか目がいつもよりパッチリ開いている。おおお~!!頬のあたりが、少しだけ軽い。続けていくことでじわじわと効果は出そうである。施術後に手渡された白湯の、喉を通る時の混じりけのない温度が、五感に染み渡る。こういうメンテナンスを暮らしのサイクルに入れていくのも、悪くないかもしれない。

帰り道、ふわっと自分の袖口からお灸の香りが立ちのぼった。
おしゃれな香水の香りではないけれど、なんだか今の自分には、この渋い香りが一番しっくりくる。こういう日は、お野菜メインのやさしい自然食のランチなどを食べようと決めていたのだけれど、結局インド人のカレー屋に行きナンのおかわりまでして辛いスパイシーカレーを腹いっぱい食べてしまった。ドンマイ。

カレーはさておき、美容鍼。劇的な変化はなくても、少しだけ上を向いて歩ける。そんなほどよい変化を、これからも面白がっていければいい。
がんばれ、わたし。